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タイトルを付ける・・・音に明かりを灯す時

「最初に覚えて欲しいのはアンニュイという言葉です。私の授業を欠席した場合、欠席票を提出するように。ただし、体ではなく心の不調で休んだ時は、熱とか頭痛とか、そんな嘘を書く必要はありません。アンニュイと書いて下さい。欠席理由として認めます。」

高校1年の4月、M先生はこう言って最初の授業をはじめられました。当時の私は、お洒落なM先生の服装ばかり気になって、情けない事に先生が教えてくれたのが現代文だったのか古典だったのかすら覚えていないのですが、「アンニュイ」だけはなんとなく未消化なまま、ずっと心の中に配置してありました。それが、自分の年齢が当時の先生の年齢を上回る今になって、少しずつ光を放ち始めた気がします。

音楽というのは、言葉にすると逃げてしまいそうな何かを表現するのに便利だと思います。自分の中にはそういうものがあふれていて、それが世界の大半を占めているようにさえ見えます。そんな訳で作曲をしている時の私はほとんど言語を忘れた人のようになっています。

そうした状態を経て、最後に曲に名前を付けるのは不思議な感覚です。名もなきものの一部を音に記して、それに名前を付ける事、それは慣れ親しんだ未知と出会い直すようでもあり、また「在るような無いようなもの」が「在るもの」になる瞬間でもあり。言葉って照明のようだと思います。光を当てたい時もあれば、当てたくない時も、光を当てたことにより影を作ることも、当てるべき光が見つけられない時もあります。そんなこんなで毎度手間取るタイトル付け・・・。
私にとって世界は大きすぎて、いつだって言葉足らず。名もなきものの中に暮らし、未だカタコトしか話せない私にこそ笛が必要だと実感する瞬間です。