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マンボウ


 国によって、月の魚とも、太陽の魚とも呼ばれるらしいこの魚に興味を持ったのは小学生の頃でした。図鑑の中の、大きくて、丸くて、「まんぼっ」って発音した直後のような顔が大好きになりました。
 学校で図工の時間に粘土でマンボウを作ったら、普通の魚の失敗作と思われてがっかりしたりしていました。

 その後、サンシャインの水族館で初めて本物のマンボウに対面しました。ボーっとした佇まいを見て、水槽の前の説明書きに、「マンボウがうっかりガラスや壁に激突するのを防ぐために四方にビニールを貼ってある」と書かれているのを読んで、なんて期待を裏切らない面白い魚だろうと感動したものです。壁にぶつかってしまうなんて、自分の体の「はじっこ」が把握できないということでしょうか。

 そういえば、井伏鱒二の「山椒魚」は、岩穴の中で過ごすうちに、自分の体が成長しているのに気付かず、穴から出られなくなった山椒魚の話でしたっけ。穴につかえてしまって初めて自分の体の大きさを知るなんて、本人の言うとおり「失策」にちがいないのですが、実際の所、自分の体のサイズを把握する手段とはこうした単純な事件の積重ねだったりするのかもしれません。つっかえたり当たったりして、自分のてっぺんやはじっこの境界線が、どのあたりにあるかを少しずつ、または劇的に知るようになるのではないでしょうか。劇的な場合は痛そうですが。

 広い世界で育ったマンボウは、どこまでが自分の体でどこからが海なのか、知る必要がないのかも知れませんが、おそらくあの体形では、例えば自らのシッポやオデコは一生見る事ができないはず。触覚でのみ存在を知る事のできる自分のオデコを、マンボウ本人はどんな姿に思い描くのでしょう。などと想像しているとますます深みに填りそう。だんだんと私も、自分のオデコを見定めるべく、笛を吹いているような気までしてくるのです。