虫的選択



演奏家になりたいと思ったのは小学校高学年の頃です。他にもたくさん興

味の方向があり、その中の1つとして演奏や作曲にも興味がありました。

けれど、他の夢は人に言えても、音楽家になる夢は公表出来ないでいま

した。周囲には「宇宙飛行士になりたい」と言っていたような気がします。

天体が好きなのもありましたが、さすがにそこまで大きな事を言うと、「良い

夢ね〜」程度にすっきり受け流してもらえました。


音楽家志望という選択には不安定さへの懸念がありました。「音楽家は

お金に苦労するというのはアリとキリギリスの童話にもあったし、あんな感じで

冬に蓄えもなく死んでしまうのはしんどいし・・」。やっと中学2年頃になって

「それでも仕方ないかな」と思えた時から演奏家を目指し始めた訳です。

今のところ、なんとか毎年越冬しています。



それにしても、イソップ童話でのキリギリスの扱われ方はなんと言うか、せつ

ない感じがします。リスナーから見た音楽はエンタテイメントであって欲しい

と思うのですが、職業音楽家にとって音楽作りは遊びではないので、パン

屋さんが腕と感性と体力でパンをこねるように、音楽家も腕と感性と体力

を駆使して働きます。アリさん的作業もする一方、演奏中はお客さんには

単純に楽しんでもらいたいので、なるべくイソップキリギリス的たたずまいでい

たいと思ったりします。どんな虫でもそれなりの生を全うしている訳で、私も

そうありたいと思います。


そういえば篠笛の材料である篠竹を好む虫もいるのですよ。

たまに笛師さんが指穴を開ける前に、勝手な場所に穴を開けてしまうよう

です。数pずれたってお味は大して変わらないのでは?どうせなら設計通

りに孔をあけて欲しいと思うのですが、そこを食べちゃった必然的理由はそ

の虫になってみないと分からないのでしょうね。
SHINOBUE NET
HOME
よしなしごと