遠音に惹かれる



 川上弘美さんのエッセイに「遠くから聞こえてくる音というものに、惹かれる。」という一文があり

ました。「音というものに」の後の絶妙な「、」の所で、まるで今どこか遠くから音が聞こえてきて心

がそちらへ連れて行かれてしまいそうな気持ちになって心底共感してしまったのですが、あとあと

何故そんな風に思うのだろうとぼんやり考えてみました。



コンサートでは誰が演奏し誰が聴衆となるのかはっきりしていて、ちょっぴり緊張感を持って対

面する場合が多いのに対して、遠くからきこえる笛の音の場合「もしかしたら聴いてるかも・・・」

と思って吹き「あっちの方で誰か吹いてるかも・・・」と聴き、両者は音の糸のようなものによってと

ても緩やかな関係で結ばれるようで、そこに心地よさが生まれるのかもしれません。

また、両者の間の距離が横だけでなく縦方向にも空間の広がりを感じさせるのかも知れないと

も思います。至近距離で聴く笛よりもずうっと向こうの垣根のあたりからきこえる笛の音は空の少

し高いところの清浄な風に乗ってこちらに届いたような気分がするのは私だけでしょうか。

もう一つ、これは前の二つほどは夢のない話ですが、笛の場合、吹き方によっては近くだと音色

の他に息がシューシューといっている音(シャーリング)までがきこえてしまう場合もあるので少し離

れて聴いた方がなめらかな音にきこえるケースもあるかと思います。

私が思いついたのはこんな事で、実際のところどうなのかはよくわかりませんが。



童謡でこんな歌がありました。「コロロ コロコロ鳴る笛はあれは蛙の銀の笛〜」他に「きこえ〜

しはこれか青葉の笛〜」や、笛吹童子のテーマ曲では「だ〜れが吹くのか魔法の笛だ」と歌って

ます。

姿が見えない遠くの笛の音にはやはり多くの人が惹かれるのかもしれません。
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