音のデータ
邦楽にたずさわる人には当たり前でも、そうでない人から見ると物珍しい点も数多く、
その一つに口唱歌というものがあります。これは一定のメロディーやリズムを口伝でお稽
古する際にそれらを言葉によって表現したものです。たとえば私が教えて頂いた能管
のお稽古では 五線譜で書くと
というメロディーを
@オヒャーラーァイホウホウヒーという唱歌を暗唱する
A指付け集を見ながらその指使いを覚える
B吹く
の順でマスターしていきます。
五線譜は一つ一つの音は高さ、長さというデータを数量化して表すのに適した記譜
法ですから読み方さえ覚えてしまえば最初の音はどのくらいの高さでどのくらいのばせば
いいのか、それに対して次の音はどれだけ高くなって何倍の長さのばせばいいのかという
ことを端的に伝えてくれます。この場合出だしの2音はミソーと読みます。ですが音の発
音や質感を伝えたい場合はどうしても笛の音を擬音的に表現した唱歌が便利です。
ミソーよりはオヒャーといった方が音色の雰囲気がつかめます。
どちらの伝え方にも長所短所があり優劣をつけることはできませんし私は時と場合で
両方を使います。また、仕事柄他にもいろいろなタイプの譜面を見る機会が多いせい
か、それぞれの記譜法の音のデータの選び方の違いにとても興味をひかれます。尺八
も、笛も、太鼓も、三味線にも、「ウタ」や「手」などと呼ばれる口唱歌のスタイルが見ら
れます。
楽器の音をそれ以外の手段で誰かに伝えるとき音の基本データとしてまず何を優先し
たいのか、あるいはそもそも音のデータにはどんな種類があるんだろう・・・高さ、長さ、
発音、大きさ 、質感 etc. 他にも私が気付かないだけで大切な音の要素がまだまだ
あることでしょう。それをたくさん見つければもっと良い笛が吹けそうで、興味をひかれ
るけれど少し頭も痛くなりそうで、でも笛吹きの私としてはそのあたりのハテナとつき合い
ながら吹いていくしかないんですが。
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